PROJECT STORY 02 山口工場設備改善

PROJECT STORY

至上命題だった品質向上。
10億円規模の
大型プロジェクトを追う!

2018年、3か年計画で行われた山口事業所第二圧延工場の設備更新工事が無事に完了した。
総工費は約10億円。
製品の荷姿・品質向上に向け、段積み装置、大結束機と成形機、小結束機を全面更新および最新鋭機に更新するという、かつてない大規模なものだった。
その工事に与えられた期間はわずか14日間×3か年。
特に初年度は計画のタイトさが叫ばれた難題に立ち向かい、見事成し遂げた社員たちの軌跡を追った。

PROJECT MEMBER

  • 古本真一朗
    製造部工務課 主幹

    古本 真一朗 Shinichiro Furumoto

    • 理工学研究科 機械工学専攻
    • 2011年入社
  • 畑 大樹
    製造部圧延課

    畑 大樹 Daiki Hata

    • システム理工学部 機械工学科卒
    • 2012年入社
  • 藤井悠司
    製造部工務課

    藤井 悠司 Yuji Fujii

    • 工学部 電気電子工学科
    • 2014年入社
SECTION01

ミッションは
第二圧延工場の大規模改造。

そもそも困難は予想されていた。いや、“約束”されていたといってもいい。
中国・四国・九州地区の拠点である山口事業所における、異形棒鋼・形鋼等の荷姿や品質改善を目的とした「第二圧延工場精整設備改造」工事完了までの道のりである。
5人で結成されたプロジェクトチームにおいて、現場での中心的役割を担ったのは、同事業所の製造部圧延課に配属されて4年目の畑だった。
昨今、鉄鋼の生産現場は、機械の自動化および省力化の導入が進んでいる。そうした中、安全性向上の観点から、鉄鋼製品の品質均一化および荷崩れしにくい荷姿改善に対するユーザーからの要求は年々高まりをみせていた。さらに、関東方面への販路拡大の影響もその流れに拍車をかける。荷姿とはいわば、“パッケージ”のようなもの。関東の大手市場で有名メーカーの製品と横並びに見られるということは、パッケージとしての荷姿がこれまで以上に比べられることになる。畑は言う。「品質は同じでも見た目の良い製品Aと悪い製品Bがあれば、お客様がどちらを選ぶかは明白」だと。
生産量・販売量を確保し、シェアのさらなる拡大に向けた工場設備改善の必要性はもちろん、その緊急性についても畑は認識していた。それでも、3期にわたり計画されていた工事の第1期の詳細には、思わず呆然となった。主設備である段積設備の抜本的な改造のため、基礎・機械・電気それぞれに非常に多い作業ボリュームだというのに、示されていたスケジュールはわずか14日間。通常、この規模の改造工事には約1か月を要するというのに、だ。
困難を極める状況に頭を痛めていた畑は、山口事業所の製造を知り尽くした上司より生産品種を限定して、使用しない設備から事前の工事を進めてはどうかと提案を受ける。

SECTION02

秘策の要を握る
「コンバインドミル」。

当社では毎年7~9月に、枚方や名古屋を含む全事業所で14日間をかけた設備の大幅なメンテナンスを行っている。今回のプロジェクトもこの定期メンテナンス時期に組み込まれたものだったのだが、その期間にこれほど大規模な工事が行われた前例はなかった。それでも、工期が従来通りのまま据え置かれたのは、休業が14日以上に及べば収益に大きく影響するため。
「なんとしてでも期間内に工事を終わらせる」。
これが例年、工事担当となった社員の間で至上命題として引き継がれてきた。そう、やり遂げるしかないのだ。
山口事業所第二圧延工場はある特徴を備えている。それは、1つの圧延設備の中で圧延スタンドや圧延ロールを組み替え、多品種の棒鋼・形鋼の製品を同一ラインで製造できる「コンバインドミル」だったということ。つまり、ある品種を生産している場合に、一部使用しない設備が現れるのだ。そこで畑は、上司から受けた提案通り、多品種生産に対応した設備の特性を逆手に取って、生産品種の絞り込みを図る。使用する設備を最小限に限定することで、工事開始前に可能な範囲で着工できるよう掛け合ったのだ。修理休業を目前に設備を限定使用することは、収益の問題にも関わりかねない、通常ならば使わない手段。上層部がこの工程を承認したことからも、いかに異例だったかが理解できるだろう。
こうして2016年、改造工事の初日を迎える。
同じ年に、製綱設備機械担当から圧延設備機械担当へ異動したばかりだった工務課の古本は、プロジェクト参加への打診を受けた。24時間の突貫工事に対する二交代制において、畑のサポート役として抜擢されたのだ。とはいえ、古本は数日前までは製鋼設備機械の担当。現場が違うため、当然ながらどういう動きをするのかわからない設備もあり、共通の知識として伝えられる部分以外は、トラブル対応などの判断に苦慮する場面も多かったという。

SECTION03

問題発生。迫るリミット。
緊張の日々。

こうして始まった工事は、混乱の連続だった。たとえば荷物搬入という作業ひとつをとっても、搬入日時や搬入場所に始まり、「荷降ろしはクレーンかフォークリフトか」、「運転者は?」「吊り具は?吊り方は?」など、決めておかなければならないことは数多い。しかし、プロジェクトメンバーの中に、この規模の工事を経験したものがおらず、詳細なところまで詰め切れていなかった。突発的な対応に追われる中で、工事に手待ちの状態が発生しないよう、手配にも万全が求められる。解体時の廃棄または流用箇所の判断や据付時の基準・位置決めなど、夜間、たった一人で現場を取り仕切っていた畑は、相談できる相手もいない中で、状況判断と決断を迫られる日々を送った。
同じように、設備設置後の電気設備工事をとりまとめた藤井も、準備不足を痛感することになる。電気工事についても、実際に工事が始まるまでに可能な限り進める予定だったのだが、はかどらなかった。夏季の定期メンテナンスを初めて担当した藤井には、作業のとりかかりがうまくイメージできなかったからだ。
既設設備の状態把握も万全とはいえなかった。他の設備への電気的な影響などを調べ切れておらず、その場その場で確認しなければならない事態が頻出。状況判断に時間をとられた。さらに追い打ちをかけるように基礎工事に遅れが出始める。基礎工事が終わらないと電気工事には取り掛かれないため、ロスした時間はすべて電気工事に食い込んでくるという悪循環だった。
この状況を前に、古本は「間に合わないんじゃないか」と胸中でつぶやいた。ぎりぎりのスケジュールの中、工事はどうにか順調に進んでいたのだが、時間的な限界を前に、到底、完了できないと思えたからだ。しかし、弱音を吐いても仕方がない。できることをただ地道に邁進するだけ。1年目はサポート役に徹した古本だったが、このときの苦い経験が3年目の順調な工事へと活かされていく。

SECTION04

日の出とともに迎えた
念願の工事完了。

1年目の工事が完了したのは、最終日の早朝のこと。電気工事を終了したという報告を受け、現場を巡回し工事の進捗管理に集中していた藤井が外を見やると、すでに夜が明けていた。ここまでただただ必死で、遅れるとか間に合うとか考える余裕すらなかった。それも後は試運転を残すのみだ。予定より数時間の遅れを出してしまったが、操業開始時間にはまだ間に合う。こうして第二圧延工場に操業開始を告げるベルが無事に鳴り響いた。この時ばかりは、藤井の心にも大きな達成感と安堵感があったのは言うまでもない。一方、古本は「諦めないことの大切さ」を実感していた。諦めさえしなければ、たとえ少しずつでも事態は前に進む。諦めれば終わりという絶対的に不利な立場にいた中でも、モチベーションを保ち続けられたのは、同じ難関に立ち向かったプロジェクトメンバーのチームワークにあったといえるだろう。
実際に設備が稼動し、流れてきた製品を前に心から安堵していた畑は、後日、営業からうれしい話題を向けられる。厳しい要求を繰り返していたお客様から、工事完了後の製品について素直なお褒めの言葉をいただいたというのだ。お客様の生の声に触れることのない現場の人間としては、その評価はもちろん、伝えてくれた営業の喜びも伝わるようで、改善された荷姿を確認したとき以上の達成感を味わった。

工事は以降、2年目に大結束機と成形機を最新鋭機に、3年目には小結束機の全面更新が続けて行われた。いずれも1年目の苦労と経験がフルに活かされ、工期に余裕をもたせて竣工。こうして10億円をかけたプロジェクトは無事に達成された。
多品種・多サイズ生産を行う山口事業所は共英製鋼グループの柱だ。課題であった荷姿と品質向上を果たした今、「100年企業」を実現するため、すでに新たな取り組みに挑み始めている。